IL__イタリアに滞在した時期も長かったとのことですが、土屋さんの作品にはどこかアルテ・ポーヴェラのアートのような印象も抱きます。
NT__そう? ただ、“Yes”というイタリア人はいないなぁ。何回か聞いたことはあるけど。私自身、アルテ・ポーヴェラに詳しくないしね。好きだけど。
IL__では土屋さんの作品がヨーロッパの人にとって何か親近感のようなものがあったというわけでもなく…?
NT__わかんない。エキゾチックってよく言われた。ミステリアスとか。
IL__作品の素材についてお聞きしたいのですが、今作品に使われているような素材はロンドンの学生時代から使われているのでしょうか?
NT__今より廃材の割合が多かったと思う。ロンドンでは色々な種類の素敵な廃材が収集できたの。度々路上に廃材が放置されていて、沢山かついでバスに乗ろうとしたら乗車拒否をされたことは何度かあるし、ゴミ探しに夢中で業者用ゴミ箱に頭から落ちた事もあった。当時のロンドンは廃材の楽園だったのよ。(笑)
IL__制作をされる時は、素材をいったん集めてから取り掛かるのでしょうか?
NT__制作とは別に素材はいつも集めてるかも。
IL__それから集めた素材を、何を作るか考えながら組み合わせていくんですね。
NT__そんなもん無しよ。何を作るかなんて初めからないし、最後までない。そんなことしたら作れるものしか作れない。自分が考えるものしか作れないでしょ。
IL__では、何を作るかは決めずにずっと…
NT__決めないで手を動かすの。集めた素材を切ったり付けたり何かする。すると、何かの形っぽくなって、そういう破片を一杯作る。その中でこっちとあっちを組み合わせると、何かっぽくなったり、ならなかったり、で、いったん放置する。眺めていてつまらなかったら壊して組み合わせを変えてみる。そのプロセスを繰り返すなかで、それらが、昔体験した何かとか、子供時代の記憶とか、そういうものに見えたり感じたりする瞬間があるのね。はっきり認識出来るものが見えたら、それは壊して、プロセスに戻す。
最終的に、何かのようだけどはっきりわからない、忘れてた記憶に引っかかる様な、そう、それが記憶のフックのように作用するって思った時が終わり。要するに何かははっきり認識できないけれど、絶対何かだ…って感じられる所を完成としてるの。で、バランスを取る。バランスは、社会人としてのカッコ付け。
IL__(笑)
NT__作る、じゃなくて、探してる。何かを作ろうと思うと、その何かにしかならないでしょ? その限界はすごく窮屈。自分の限界を突破するのも、発展させるのも、難しい。自分が驚けないから、嫌になっちゃう。ただね、「探してる」だと、どんなものが出来るのか、もっと言えば、作品が出来るのかもわからないのが正直毎回ちょっと怖いのね。(笑)
IL__その、バランスって?
NT__展覧会の場合だと空間とのバランスの中で最終仕上げをする事が多いの。ただそのバランスも崩していいとも思ってる。崩れたバランスってものあるし。その空間の中で、人が惹きつけられるようなバランスを探す。
IL__じゃあ、現場に持ってきてから?
NT__現場で見ると印象が違うことも多いし、空間との兼ね合いで作品が変化するのよね。今回も壊して小さくしたものはあるし。
IL__『クールなコンテクスト』の話が出ましたが、土屋さんの作品と言語との関わり合いは?
NT__言語って難しい。バラバラに分解して他の素材と同等に扱ってる。常に言語と共に生きてるから、完全に逃げるのは不自然で難しいし。ただ、通常の使い方では作品に取り入れてないの。もちろん何を作ろう、なんてない訳だから、そこでの言語はない。制作中の私の頭の中の言語はバラバラに分解されてる。私にとって、言語は社交性の象徴のようなもので、人と繋がるためのツール的要素が強い。だから言語をそのまま使うと、自分自身の奥底のところに全く到達しない。私にとって言語は、自分を守るための洋服みたいなもので、私が作品で出したいのはその服のずっと奥の事だから、服が邪魔なの。どちらにしても、制作上で無意識に言語はバラバラに解体されてる。視覚、感覚のスピードに合わせるとそうなるのかなぁ? まぁ、追いつくことはないけどね。言語って回りくどくてまどろっこしいよね?
IL__制作の中で他に大切にしている事は?
NT__そうねぇ。素材を手にした時の感触だったり、重量や温度をしっかり感じる事だったり。素材に手を加える前に、素材と遊ぶ事かも。ウールにくるまって軽く踊るとか。(笑)
IL__素材が体に入る感じですか?
NT__入るというより、ある種会話してる感じかな? 色んなことがパパっと頭をよぎったりするの。それは、忘れてた感情だったり、どこかに飛んでいく想像だったり、普段自覚しない欲求だったり。頭も働くし、頭だけじゃなくて何かが働くのね。だから、素材に引き出してもらうと言う方がしっくり行く。磁石みたいにね。そして素材を組み合わせたり壊したりすると、それが加速したり、停止したり。それが本当に楽しいの。人といるより楽しい。(笑)
IL__素材を集める際の基準も、ご自身のフックのような感覚に基づいているのでしょうか?
NT__その基準は、あるような、無いような? 相性がいいものとそうで無いものはあるのかなぁ? ただ、10年ほったらかしにしたものがその後素敵に見えることはよくあるし、20年前にどこかで拾ってきたものを使うことも度々ある。その時点ではわからない。今まで色々な国で色々な素材を集めてるの。同じ素材でも出身が違えば違う作用をすることもあるしね。
IL__制作は常に楽しいのですか?
NT__楽しいんだけど、同時にかなりのエネルギーも使っている。私の制作の最終段階に入ると、頭の中同様、スタジオ中に、散らかりまくった制作の破片を形にしていくの。最後の展開。その時、力仕事は大抵終わっているから、体力はさして使わないけど、ぐっと体重が減る。チョコレートがご馳走になる。今回の展示でもこの時期に体重が6キロ減った。