TATSUHIKO TOGASHI__ヨウコちゃんってドローイング描くスピードがものすごく速いんですよ。その都度、描いたものを見せてもらっていて。ドローイング(下絵)そのもの自体も良いんだけど、最近は完成したものの方が断然良くて。
IL__冨樫くんの作品はヨウコさんとはまた異なったアプローチですよね。今回のグループ展では計3点展示しているけど、メディアも写真に立体、ドローイングと多様ですよね。これらは同時期に制作したものですか?
TT__そうですね。今回の作品は全て新作で、同時進行で作りました。「Paper on leather」に関しては、僕ずっとフロッタージュを使って作品を作ってみたいな、っていうのが前提としてあったんですね。その頃、ちょっと良いホテルのレセプションデスクにサインとか書く用のレザーパッドが置かれているのを見て、「紙にペンだからインクオンペーパーだけど、ペーパーもさらにオンレザーじゃん」って自分の中で盛り上がっちゃって…それがきっかけで出来た作品なんですけど。
このレザーに描かれている図像は、赤い片面用カーボン用紙の裏側に印刷されている薔薇の模様をそのまま写したものなんです。一部はハンダゴテで焼いていて、それらを三色ボールペンで色付けしている。ハンダゴテで焼く時、レザーの匂いがするんですけど、それも良いなって。「Paper on leather」は僕の中では、ドローイング的な位置付けとして在るんですが、それ自体がさらに別の筆記の下敷きになるように、テーブルの形式を引用しました。
IL__同時進行で制作したということ言う事は、「ビックロ」、「Rose is a rose」、両方とも同じコンテクストを共有しているんですか?
TT__…かな。この写真は文字通り新宿のビックロです。たまたま用事があってビックロに行った時に、エスカレータに香水を試匂する用の紙、ムエットって言うんですけど、それが引っかかってたんですよね。その時は写真を撮りそびれたので、後日自分でもう一度その様子を再現しに行きました。まずムエットをもらいに伊勢丹の香水売り場に行ったんですけど、そこでたまたま試匂したのが「ローズ&キュイール」っていう薔薇と革をテーマにした香水だったんですよ。
あとで調べたらそれがジャン=クロード・エレナの新作で、成分を調べてみたら、ローズを使ってないらしいんですよ、実際は。彼がローズの代替に何を使ったかっていうと、ネパールのTimut pepperっていう山椒なんです。それは香水作りにおいてはよくあることで、例えば柘榴の香水なんかは、柘榴から香料を採るのは難しいから、違うものを組み合わせて再現したりする、みたいな。「Rose is a rose」は4色の胡椒を使った作品なんですけど、まさか薔薇と革と胡椒がこうやってつながるとは思ってませんでした。
IL__現在進行形で「Rose is a rose」からすごく良い匂いがしていますけど。このスキャナーの上で燃やしてるのが胡椒ですか?
TT__これはお香の原材料で、水と混ぜたら線香になります。それに胡椒を混ぜています。お香台に何を使うかは特に考えていなかったんですけど、その時たまたま友達からNYのある写真家がコカインをやるのに、プリンターのスキャナー面を使ったって話を聞いて。木の板とかだと木目に入っちゃって勿体無いじゃないですか、だから映画とかではよくガラスのデーブルとかが使われてるけど。それがなくて、身近にあるツルツルしたものがスキャナーだったっていう。
IL__渡邉くんも冨樫くん同様に、多様な手法での作品が多い印象があります。今回のグループ展でも、ドローイング、立体、写真作品を展示しているけど、特にメディアを縛って制作する、ということはないんですか?
YW__そうですね。まずアイディアが前提として存在していて、それを実現するために一番相応しいメディアを選択するというか。今回はこの手法で行こう、みたいな感じです。
IL__「Book」シリーズはホッチキスで束ねられた紙にドローイングが描かれた、文字通り本のフォーマットを模した作品ですよね。「Cars」はボンネットの上に置かれた3枚の車の写真を写したもの、「Box」は内側にドローイングが描かれた箱が真二つに裁断されています。これらはリンクし合っているのでしょうか?
YW__厳密にはリンクしてはいないです。してないけれど、自分が作っているものだから、メディアは遠くとも、混ざりあってるかと思います。例えば、「BOOK」は本です。これは中綴じ製本した本にインクで描いていって、それから、その本を平綴じに製本し直した作品になります。なので、絵を描いた時点では、見開きの右ページと左ページは隣合わせじゃなかったんですよね。「BOX」もフォーマットは違うけど、似たようなことがおきていて。一枚の絵が切り開かれて背中合わせに置おかれています。
IL__「展開する事」が渡邉くんの作品の中で重要な要素のように思えるんだけど、意識していたりはしますか?
YW__そうですね。最近は色のことが気になっていて。今回の本の作品は、見開き1ページに1色だけ使うことをルールにしています。この色の混ざりは、染み込みとかうつりこみです。本来、ページは色ごとにわけられるんですよね、ヴァイオレットのページ、ピーコックブルーのページ、ペイニーズグレーのページみたいに。ページに色の名前が付けられるってことが重要な事な気がしていて… 色で媒体を行き来できるみたいな。例えば色は色でしかないけれども、何かを説明するときに色で特徴づけられるというか、グリーンのページは4Pみたいな。それがいいなって。
IL__ラベンダーの皆様が制作上で大事にしている所とか、念頭に置いとくみたいなことってありますか? 例えば、冨樫くんの話を聞いていると、体験を再現することが制作への興味みたいなものへと繋がるっているように感じました。その体験を喚起させる要素として匂いも重要な箇所なのかなと。
TT__大事にしてる事かはわからないけど、ある時、あらゆるものには匂いと味があるって事に自分の中でハッとした瞬間があったんですよね。例えば、ドナルド・ジャッドとかもの作品にも匂いがあるなって思っていて。舐めたらもしかしたら味がしそうじゃん、みたいな。それから、自分の中で色々クリアになったというか。