IL__なるほど。だからこそ、作品に登場するCOBRAさんを見ていると、自分を良く見せたいとか綺麗に見られていたい、みたいな、ある種のパフォーマーのエゴのようなものが欠落している印象を受けるのかもしれません。
自分の身体を供物として扱うという意識は、もしかしたらCOBRAさんの作品「The Object」シリーズにも表れているのではないかなと思いますが。
「The Object」シリーズはご自身の顔を模ったFRP型に時計の秒針が配置されていたり、ポートレイトを時計の背景として使用している彫刻作品ですが、時計をモチーフとして使用することになった理由はありますか?
CO__理由か…どうだろう…。単純に僕、時計が好きで。
最初に時計をモチーフとして使おうって決めたのは、僕の中で色々な要素が合致したからです。例えば、身体的なパフォーマンスにとって時間という概念は重要なパートの一部であることや、ポートレート写真に時計を付けること、それを彫刻として提示しちゃうユーモアとか…。
「The Object」シリーズ自体はすごくシンプルな作品なんですけど、僕の中ではすごく腑に落ちていて、意味のあるものです。何というか、あの作品のアイデアを思いついた瞬間、ふぁーって感覚が身体に走って、これはすぐ作品にしなくては、って即座に取り掛かりましたね。
僕、昔から収集癖が結構すごくて、特に訳がわからないものを集めるのが好きなんです。自分でも何故それが気になるのか謎なんだけど、欲しくなってしまう。選択の基準が明確じゃないんです。時計が好きっていうのも、その訳がわからないけど欲しいっていう感覚と一緒で。でも、その感覚こそ作品を制作していく上で自分の中で大切にしていることなんだと思います。
IL__ユーモアという言葉が出てきましたが、COBRAさんの作品には一貫してユーモアがありますよね。例えば、2017年NYのBrennan & Griffinでの個展「Freeze NY」では「Y COBSAWA」を筆頭に著名人に扮したCOBRAさんのポートレイトと有名なアートワークを模造したオブジェクトを並べて展示したシリーズを発表されています。あのシリーズからは風刺のような、ユーモアとシニカルの両方の要素が含まれている印象を受けましたが、それは意図した所だったのでしょうか?
CO__はい。意図しています。「Freeze NY」で展示したあのシリーズはコメディーに偏っているので、シニカルな要素が多く含まれているのは必然になります。
僕の中では常に制作や作品のコンセプトには、遊びっていう大枠があってその次にユーモアがきます、そしてその後にコメディーがあるという感覚です。コメディーって基本的に既存の仕組みがありますよね、それを社会が揶揄したり、皮肉ったり、対象が存在することが前提としてあるんです。
IL__なるほど。COBRAさんにとって昔から面白いことや、ユーモアの要素を作品に含むことは、常に大切なことだったんですか?
CO__面白いことはずっと好きです。大学時代には劇団にも所属していました。そこは、コメディー色の強い劇団で、所謂コントみたいなことをしていましたね。
あと、僕ジャッキー・チェンが昔から好きで。彼が素晴らしいのは、どんな状況でも受け入れて、即座にリアクションが出来るところなんです。僕もそうなりたいというか、常に人を笑わせられるようになりたいとは思っていますね。
IL__COBRAさんが作品を介して目指している事って、最終的にユーモアや笑いへと行き着くんですかね。
CO__僕が目指しているのは今世紀最大の駄作なので。これは友達がくれた言葉なんだけど、基本的に僕の人生での出来事のほとんどは知人にきっかけを作って貰っていて。例えば、COBRAって名前も友人のアーティスト、松原壮志朗くんが命名したものだし、作家になったというか、展示をするきっかけになったのも千葉正也くんだし。ユーモアが偏っていてもいいんだよ、ってタイミングを与えてくれたのが、これまた友人でアーティストの万代洋輔くんです。
昔からユーモアって要素を自分の作品に取り入れて制作してはいたんだけど。その当時、僕の作品を見た万代くんが、「これは今世最大の駄作だね。」って言ったんです。その時に、ハッとして、今世紀最大の駄作を目指すのってカッコいいなって思って。それ以降は、ただただひどい作品を目指しています。
IL__2019年から「Rat Museum For Rat」、「Story of eggs(bird gallery for bird)」など、ペインティング作品も発表されていますが、絵画を制作するようになったきっかけはあったのでしょうか?
また、「Rat Museum For Rat」、「Story of eggs(bird gallery for bird)」の両作品共ペインティング単体ではなくケージに入って提示されているのが非常に印象的でしたが、それらの作品の意図についても教えてもらえますか。
CO__絵画シリーズを始めたのは、アートフェアに出展することになったのがきっかけです。フェアでみる作品のほとんどが絵画だよね、っていう最初はすごく単純な理由だったんだけど。何というかその時も時計の作品(The object)とまさに一緒で、ふぁーっという感覚が全身に降りてきたんですよね…。
「Rat Museum For Rat」が、ペインティングとして発表した最初の作品になります。あの作品に関しては、金属製のネズミ取りをどこかで見かけて、それがオブジェとしてとても魅力的で、すごく気になったのがきっかけというか…。そこから着想を得て、発展させたものを最終的にペインティングという形式に落とし込んだという感じです。ネズミ捕りが気になったのも、さっき話した、訳がわからないけど欲しいみたいな感覚と一緒かな。ペインティング、アートフェア、ネズミ捕りの三つのピースが上手く結びついて、一つの作品として僕の中で成立したんです。
制作に取り掛かった当初はネズミ取りの中に置くのはチーズのペインティングだけでいいかな、って考えていたんですが、それだけでは作品として成立しないような気がして。それで、スポンジボブとかトムとジェリーのようなチーズを喚起させるイメージを引用することにしました。結果としては、当初描いていた構想とかなり近い形の物になったんじゃないかなって思っています。