IL__制作過程について教えていただけますか?
SP__今回の作品を制作するにあたって国際猛禽センターの協力を得られたのは非常に幸運でしたね。職員のアダブ・ブロッホ氏のおかげで、コンドルのプーキーとペイズリーの撮影をすることができました。国際猛禽センターが行なっている保護活動に関しても非常に感銘を受けました。
動物を被写体にした写真を撮影することが多くなって以来、私の頭の中や夢の中に動物がよく出てくるようになりました。その頭の中の動物を追いかけていくうちに作りたいイメージが呼び起こされていくという感じですね。動物を被写体に撮影するのはかなり刺激的です。基本的に動物の機微を逃さないようにデジタルで撮影しますが、その前にフィルムカメラでも前撮り撮影します。私は暗室で過ごす時間を大切に考えていて、私にとってフィルム写真は画家にとってのスケッチのような感覚です。基本的にデジタルとフィルムを行き来するのが好きで、この二つが衝突して新しいものが生まれるのも期待しています。プロセスを常に記憶していくことは物を作る上でとても重要な行為だと思います。写真を単なるイメージに留めないためにも、作品に身体性を持たせる必要があると考えています。錬金術のようなものです。私は自分の作品を写真というよりオブジェクトとして捉えていて、気付き、解放、実行を喚起させる像のような物なんです。
IL__これまでのプラテルさんの作品の多くはコンストラクティッド・フォトグラフィの手法に分類されると思うのですが、通常実際に撮影するまでにどれほどの時間を準備に費やしますか? またプラテルさんの修了展で「The Mothers」「Bella, Love Bird」「Lord Make Me Pure, But Not Yet」の3枚の写真を展示されていましたが、写真だけではなく床が黒く塗られていたり、壁にラテックス製の白いカーテンがかけられていたりなどのインスタレーションの部分もとても印象的でした。プラテルさんにとってインスタレーションは写真作品の補間装置的な役割として捉えているのかお聞きしたいです。
SP__私は長いこと、写真家の規律を重んじる複雑なプロセスに完全に隷属していました。でも今は、自分自身を写真家というよりはアーティストだと思っていて、自分の視点を表現するために必要な手法を選択するようにしています。私の作品は常に癒し・治癒に対してのモチベーションから生まれていて、これは人間が成長するために発芽させる必要がある種のようなものです。原始的で秘教的な言葉をあえて選択して自身の作品を説明する事によって、自分の自己中心的かもしれない発見や思考を普遍的なメタファーへと変換できないかなと考えています。このやり方が上手くいかないこともありますが…..というか基本的に上手くいっていません。でも、もし自分の作品が普遍的に理解させるものになってしまったら、私は作品を作ることをやめてしまうと思います。
修了展に関して言うと、床やその他のインスタレーションのオブジェクトは映画のセットのようなもので、修了展では写真作品の主題を強めるために彫刻的なアプローチをしてみました。実際にそのインスタレーションを通したことで、自分でも気付いていなかった作品のコンテクストを認識することが出来ました。「The Mothers」は修了展後にダミアン・グリフィスがキュレーションした「Light observed」(KARST Gallery)で再展示する機会があったのですが、そこでようやく作品を完全に昇華することができたと思います。
IL__ブライトン大学のクリティカル・アート学科を2011年に卒業していますが、学部在学中から写真を主軸に活動していたんですか?
SP__実はクリティカル・アート学科には間違えて入学してしまったんですよね。その当時私はまだ若かったですし、自己形成過程の途中でした。結果としてこの学科に入学したことは私にとっては最高の経験になったのですが。クリティカル・アート科は美術哲学とコンセプチュアルベースのカリキュラムがメインで、学生たちは自己認識を再構築することを求められました。そのせいで、自信をなくしてしまうこともありました。それまで聞いたことのなかった芸術言語に触れたことで、認識していなかった自分の心や魂と向き合わなければいけなくなったので、不安定になった時期もありましたね。でも、そのおかげで自分の興味やそれを表現するための手法を見つけることが出来たと思います。自分の潜在意識を表現するための言語を習得するためには学習と忍耐と時間が必要ですが、クリティカルコースはそれらを与えてくれたように思います。フィルム写真には在学中に出会いました。
IL__その後プラテルさんは2016年にロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)の修士課程・写真学科に進学しましたが、そのきっかけを教えてください。
SP__私がRCAへの進学を決めたのは、ブリュッセルで初めて個展を開催した時でした。その時のギャラリストから、写真の設営方法や、印画紙が歪んでいる等を指摘されて私はまだ学ぶ必要があるなって思ったんです。あの時はこれでもかってぐらい指摘されて、殺してやりたくらい腹が立っていたんですが、そのおかげで自分のプロ意識の甘さに気付けたのでギャラリストには感謝しています。(笑)